「属人的」な仕事は悪なのか? 経営学の最新の研究を紹介

「属人的」な仕事は悪なのか? 経営学の最新の研究を紹介

特定の従業員しかやり方を知らず、他の従業員ができない仕事のことを「属人的な仕事」と書きます。

属人的な仕事は職場の生産性を下げる要因と日本では一般的に言われています。

しかし「属人的」な仕事は本当に悪なのでしょうか? 経営学の最新の研究から考えてみましょう。

「属人的」という言葉は「仕事」という言葉ともに使われることが多い言葉です。

例えば、ある仕事をするときに、その仕事が「属人的な仕事」と言うと、その仕事は「特定の人にしかできない」という意味です。

つまり、特定の従業員しかやり方を知らず、他の従業員ができない仕事のことを「属人的な仕事」と言います。

「属人的」の語源

「属人的」という言葉は、この言葉は2000年代に入ってから広まったビジネス用語です。

その前にも「属人法」や「属人主義」という言葉がありましたが、あまり一般的ではありませんでした。

「属」という字には「任せる」や「頼む」という意味があり、特定の「人物」に業務を任せることを、ビジネスの現場で「属人的」と言うようになりました。

関連する用語「属人性」

「属人的」に関連する言葉として「属人性」や「属人化」という言葉もあります。

「属人性」という言葉は、その仕事がどの程度その人に依存しているかの「度合い」を示す時に使う言葉です。

「属人性が高い」というと、その仕事が「特定の人のみできて他の人にはできない」という意味です。

関連する用語「属人化」

「属人化」という言葉は、仕事を特定の人に「一任」する状況になったという意味があります。

「属人化が進んでいる」というと、その仕事が「特定の人にしかわからない状況」になっているという意味です。

職務経歴書でのアピール

属人的な仕事とは「特定の人に聞かないとやり方が分からない」ため、職場の生産性を下げると日本では一般的に言われています。

属人的な仕事から、職場の全員が分かる「共通のやり方」に従って仕事をやるように変えることを「仕事(業務)の標準化」と呼びます。

「業務の標準化」は、それを専門とするコンサルタントがいるほど、企業にとって重要なテーマです。

転職で職務経歴書を書く際に、以下のような経験があるなら、ぜひ盛り込んでみましょう。

これらはいずれも「属人化した仕事を標準化して業務を改善した」とアピールできる例です。

属人的な仕事を「悪」とする考え方

日本のビジネスシーンでは「属人的な仕事は『悪』である」と一般的には言われています。

それは、標準化されていない業務が企業の業績を下げることが研究で分かっているからです。

最近の代表的な研究を紹介します。

なぜプロセスの標準化は品質、生産性、士気を向上させるのか

Why Process Standardization Improves Quality, Productivity, and Morale (2018) by Michael Schultheiss

この研究では、製造業、ソフトウェア開発、カスタマーサービスなど、さまざまな業界の事例を用いて、プロセスの標準化がいかに業務の効率性と有効性を高めるかを説明しています。

プロセスの標準化とは、組織内の人々が与えられたタスクや一連のタスクを完了する方法を規定する一連のルールを確立することです。

この研究では、プロセスの標準化が、作業者と管理者の双方にとって、明確性、品質、生産性、士気を向上させることができると主張している。

標準化されたプロセスに従うことで、作業者はあいまいさや推測を排除し、一貫性と正確性を確保し、時間と資源を最適化し、スキルと自信を向上させることができる。

管理者は、標準化されたプロセスを実施することで、エラーや手戻りを減らし、パフォーマンスと成果を監視し、コミュニケーションとコラボレーションを促進し、チームのモチベーションを高めることができる。

組織がもはや標準化を避けることができない5つの理由

Five reasons why organizations can no longer avoid standardization (2019) by Erik Jaspers

今日の複雑な競争環境にある組織にとって、標準化が不可欠である理由を考察している。

この研究では、建物や設備などの物理的資産の計画、設計、運用、保守を扱う重要な機能である不動産・施設管理(REFM)における標準化のメリットに焦点を当てています。

属人的な仕事を「悪」としない考え方

一方で、欧米の最新の研究では、属人的な仕事は「必要悪(やむを得ないもの)」であるという結論もあります。

「属人的な仕事によって企業の競争力が低下する」というのは、そういった仕事が個人のスキルに依存しすぎるため規模や再現性が難しいという仮定に基づいています。

しかし、今日のダイナミックで複雑なビジネス環境では、この仮定は当てはまらないかもしれません。

顧客はよりパーソナライズされたカスタマイズソリューションを求め、イノベーションと創造性が重要な差別化要因となり、モチベーション、コラボレーション、リーダーシップなどの人的要因が成功に欠かせません。

以下の論文は、「属人的な仕事」が、顧客のニーズや欲求に対する独自のソリューションを提供し、個人と組織のパフォーマンスと幸福度を高め、標準化や自動化に依存するライバルに対して競争力を生み出すことで、企業の競争力を高めることができることを示しています。

一方で、これらの仕事が、人材の発掘と維持スキルの開発と維持、自律性と協調性のバランス、期待とフィードバックの管理、不確実性と変化への対処など、マネージャーと従業員にいくつかの課題をもたらすことも、これらの論文は示唆しています。

したがって「属人的な仕事」は必ずしも企業の競争力にとって不利なものではなく、むしろ、顧客の目標に合致し人間の強みや可能性を活用し、適切な組織構造や文化に支えられていれば競争優位の源泉となり得るという結論に達しています。

Know Your Customers’ “Jobs to Be Done” (2016)

企業と顧客の関係において、企業は顧客のデモグラフィックやサイコグラフィーの特徴に注目するのではなく、ある状況において顧客が行おうとしている根本的な進歩を理解する必要があると主張しています。

そうすることで、企業は機能や価格で競争するのではなく、顧客が望む成果の達成を支援する製品やサービスを生み出すことができる。

このアプローチには「顧客に対する深い共感と好奇心」そして「実験とフィードバックからの学習への意欲」が必要であると著者は指摘する。

また、Intuit、Airbnb、Uberなど、この方法を適用して成功した企業の例も紹介しています。

Know Your Customers’ “Jobs to Be Done” (2016) by Clayton M. Christensen [https://hbr.org/2016/09/know-your-customers-jobs-to-be-done]

Psychology of Competitiveness (2019)

社会的比較、自己効力感、達成動機、性格特性など、人間の競争力に影響を与える心理的要因を探り、個人と組織にとっての競争力の利点と欠点について論じている。

著者によれば、「競争力」はその「背景」「目標」「戦略」によって、健全にも不健全にもなりうるもので、職場での健全な競争を促進する方法として「明確で現実的な期待の設定」「建設的なフィードバックの提供」「協力への報い」「多様性と包摂の促進」などを挙げています。

Psychology of Competitiveness (2019)

7 Jobs Humans Can Do Better Than Robots And AI

著者らは、創造性、共感、批判的思考、問題解決、コミュニケーション、交渉、リーダーシップなど、近い将来、自動化や人工知能に取って代わられる可能性が低い仕事をいくつか挙げています。

これらの仕事には、直感、感情、想像力、倫理観など、機械では再現や模倣が難しい人間の資質が必要であると主張しています。

そして、これらの仕事は、働く人にとってより多くの成長機会と満足感をもたらし、顧客や社会にとってもより大きな価値をもたらすと指摘しています。

7 Jobs Humans Can Do Better Than Robots And AI(2020)by Smart Data Collective

まとめ:属人的な仕事は悪なのか

属人的な仕事の仕方とは、個人のスキルや経験に依存して仕事を進めることです。

例えば、あるプロジェクトのリーダーが、自分の頭の中にしかない情報やノウハウを共有せずに自分だけで判断や決定するのが属人的な仕事の仕方です。

このような仕事の仕方は、リーダーが欠けたりチームメンバーが変わったりした場合に、プロジェクトが滞ったり品質が低下したりするリスクが高まります。

また、チームメンバーは自分の意見や提案を出しにくくなり、やる気や成長意欲が減退する可能性もあります。

日本のビジネスシーンでは「属人的な仕事は、企業の競争力を下げる『悪』である」という考え方が一般的です。

日本の企業文化は、長期的な雇用関係や組織への忠誠心を重視する傾向があります。

そのため、個人よりもチームや組織の利益を優先し、情報やノウハウを共有し、業務の引き継ぎをスムーズに行うことが求められます。

また、日本ではコンセンサスを重んじる文化があります。つまり、多くの人の意見や合意を得てから決定や行動をすることが望ましいとされます。このような文化は、属人的な仕事の仕方を嫌う風土と言えるでしょう。

しかし、米国では日本とは異なる傾向が見られます。米国では解雇が多く、雇用関係は流動的です。そのため、個人は自分のスキルや経験をアピールし、競争力を高める必要があります。

また、米国では個人主義や自己責任の精神が強く、自分の判断や決定に責任を持つことが尊重されます。

さらに、米国ではイノベーションやクリエイティビティを重視する文化があります。 つまり、新しいアイデアや方法を生み出し、実行することが評価されます。

このような文化や精神は、「属人的な仕事の仕方もやむを得ない」むしろ「個人は属人的な仕事にどんどんチャレンジすべき」という考え方につながります。

結局のところ、「属人的な仕事は『悪』なのか」という問題は、「日本の企業文化」と「米国の企業文化」とどちらが企業の業績を高めるのかというテーマにつながります。

そして昨今の企業の隆盛をみると「個人は属人的な仕事にどんどんチャレンジすべき」という米国の企業文化のほうが優位性をもっているといえます。

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