ChatGPTなどジェネレーティブAI時代に「CGM(Consumer Generated Media)」はどう変わる?

ChatGPTなどジェネレーティブAI時代に「CGM(Consumer Generated Media)」はどう変わる?

FidoNet、shopping.com、Blogger、プロシューマー、インフルエンサー、パソコン通信の掲示板から、口コミメディアの登場、ブロガーの商品レビュー、SNSの登場など…

CGM(Consumer Generated Media)変遷の歴史をたどりつつ、ChatGPTなどジェネレーティブAI全盛の時代にCGMコンテンツがどう変化するかを大胆に予想してみましょう。

「CGM」とは、「Consumer Generated Media」の略です。

直訳すると、「消費者が作ったメディア」という意味になります。

つまり、インターネット上で、一般の人々が自分の意見や感想、体験などを発信することを指します。

例えば、ブログやSNS、動画サイト、レビューサイトなどが「CGM」の代表的な形です。

ご存知のとおり、これらの「CGM」は、いま大きな注目を集め、「CGM」に発信することで収入を得る「インフルエンサー」という職業も生まれています。

「CGM」はどうして注目されているのか?

それは、消費者の行動や意思決定に大きな影響を与えているからです。

昔は、テレビや新聞、雑誌などの「マスメディア」が情報の発信源でしたが、今はインターネットが主流になっています。

マスメディアの時代には、企業がある商品を売り込もうとした場合、広告(CM)に巨大な予算をつぎ込めば、ライバル他社を圧倒できました。

しかしインターネットでは誰でも自由に情報を発信できるので、どんなに広告予算をつぎ込んでも、肝心の商品の品質が悪かったり、悪くはなくとも他社と比較して価格が高めだったりすると「他社のほうがよい」という正直な評価が出るようになりました。

結果、人々は「マスメディア」の広告を信用しなくなり、代わって「CGM」での口コミが商品やサービスの購入に大きな影響を与えるようになりました。

例えば、あなたも、ある商品を買おうと思ったときに、ネットで他の人のレビューや口コミを見てから買いませんか?

それがまさに「CGM」の力です。

「CGM」は企業でも活用される

「CGM」は、消費者だけでなく、企業にとっても重要です。

企業は、「CGM」を分析することで、消費者のニーズや傾向を把握したり、自社の商品やサービスの評価を知ったりできます。

また、「CGM」を活用することで、消費者とのコミュニケーションや関係構築を図ったり、ブランドイメージを向上させたりできます。

例えば、企業が自社のブログやSNSを運営したり、消費者が作った動画やレビューを紹介したりすることがありますね。

それがまさに「CGM」の活用です。

パソコン通信時代の「CGM」掲示板メディア

ネットワーク上に掲示板を設置するアイディアは、1980年代にパソコン通信の世界で登場した「FidoNet」というシステムに遡ります。

「FidoNet」は、電話回線を使ってコンピュータをつなぐシステムでしたが、コンピュータを1対1で接続するそれまでのネットワークと異なり、複数のコンピュータをネットワーク化して定期的にデータを同期する仕組みでした。

「FidoNet」では、様々な話題に分かれた掲示板(エコー)が作られており、世界中の人々が書き込みやコメントをして交流していました。

「FidoNet」は1990年代に最盛期を迎えて約250万人の利用者がいたと言われています。

1990年代に入ると、インターネットが普及し始めて、パソコン通信からWebへと移行していきました。

インターネット時代の「CGM」口コミメディア

インターネット技術の登場によって、ネットワーク上で掲示板のようなメディアを運営するのは非常に簡単になりました。

そして、掲示板の技術を応用し「商品の口コミ」を掲載するメディアが誕生しました。

これは、消費者の購買行動に大きな変化をもたらしました。

パソコン通信やインターネットが登場する前は、消費者が製品の購入を検討する際には主に、発売元の企業が発信する「広告」をもとに購入を検討していました。

しかし発売元の「広告」はしばしば「誇大広告」であり、消費者は不信感をもっていました。

発売元の関与しない第三者のプラットフォーム上で、実際に商品やサービスを使った人の「口コミ」が共有されることで、消費者は、商品をより客観的に比較検討できるようになったのです。

「商品の口コミ」を掲載するメディアの先駆けは、1995年にアメリカで誕生した「Epinions.com」というサイトです。

このサイトは、消費者が様々なカテゴリーの商品やサービスについてレビューを書き込むことができるだけでなく、他のユーザーから「参考になった」「同意する」などの評価を受けることもできました。

また、レビューを書いたユーザーは、広告収入やアフィリエイト収入の一部を報酬として受け取ることもできました。

このように、Epinions.comは、消費者が自分の意見を発信し、それに対するフィードバックやインセンティブを得ることができる画期的なサービスだったのです。

epinions.comは、その後eBayに買収され、現在はshopping.comの名前で運営されています。

インフルエンサーの先駆け「CGM」ブログメディア

当時は、インターネット上に「自分のページ」を作成するためには、「CGI」や「HTML」という特殊な言語でプログラミングをする必要がありました。

しかし1999年、パイララボという企業が「Blogger」という無料ブログサービスをリリースして大ヒットになり、こうしたプログラミングなしに、一般消費者が、インターネット上で簡単に「自分のページ」をつくり情報発信するようになりました。

こうした一般消費者の「ブログ」は「口コミメディア」とは一線を画すものでした。

「口コミメディア」では、商品の良さが「星」や「点数」で分かりやすく整理されますが、「ブログ」は一般的に口コミメディアほどの分かりやすさはありません。

一方で「口コミメディア」の問題点として、口コミを書く消費者一人ひとりは匿名性が高く、一人ひとりが「どのくらい商品を使い込んだ上で」口コミを書いているのか、さらに言えば一人ひとりが「本当に正直に」口コミを書いているかの信頼性は低くなります。

この点「ブログ」であれば、ブロガーの他の投稿記事を読み、そのブロガーの専門性や信頼性を確認する手段があります。

そして、この特徴から「ブログ」では「自分と同じ趣味や感性を持つブロガーがオススメする商品だから購入する」という新しい購買行動が始まります。

従来、商品を「認知」するのは、基本的は「広告」の役割でした。

「口コミメディア」は、広告などを通して既に商品のことは認知している前提で、購入検討している段階で参考にするものでした。

しかし「自分と同じ趣味や感性を持つブロガーがオススメする商品を購入する」という購買行動は、この「認知」の段階をも担うメディアが生まれたことを意味します。

「認知」の段階を担うようになった「ブログ」というメディアに、多額の広告予算を投下する企業が現れ始めました。

その結果「プロシューマー(prosumer)」と呼ばれる新しいブロガーが登場します。

「prosumer」とは、producer(生産者)とconsumer(消費者)を合わせた造語で、自分の好きなことや得意なことをブログやSNSなどのインターネット上で発信し、収入や影響力を得る人たちのことです。

「prosumer」は「インフルエンサー」の先駆けと呼ばれています。

ヘザー・アームストロング(Heather Armstrong)

ヘザー・アームストロングは、2001年に自身のブログ「Dooce」を開設しました。

ブログでは、彼女の日常生活や家族、仕事、精神的な問題などについて率直に語りました。 彼女のブログは、彼女のユーモアや正直さが多くの読者に共感を呼び、人気を博しました。

彼女はブログで広告収入やスポンサー契約を得ていました。

彼女はブログでの発言が原因で仕事をクビになったこともありますが、それをきっかけにブログを本業とするようになりました。

ジュリー・パウエル(Julie Powell)

ジュリー・パウエルは、2002年に自身のブログ「The Julie/Julia Project」を開設しました。

ブログでは、彼女が1年間でジュリア・チャイルドの料理本「Mastering the Art of French Cooking」の全てのレシピを作るという挑戦に取り組む様子を記録しました。

彼女のブログは、彼女の料理への情熱や苦労や喜びが多くの読者に感動を与え、話題となりました。

彼女はブログで自身の料理スキルや知識を披露することで、料理愛好家や専門家から尊敬されるようになりました。

ピーター・ロハス(Peter Rojas)

ピーター・ロハスは、2004年に自身のブログ「Engadget」を開設しました。

ブログでは、彼が興味を持つテクノロジーやガジェットに関する最新情報やレビューを提供しました。

彼のブログは、テクノロジー好きな人々にとって必見のサイトとなり、巨大なコミュニティを形成しました。

スマホ時代の「CGM」SNS

2000年代後半になると、スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末が普及しました。

モバイル端末の普及に符合した高速モバイルインターネット通信の普及によって、「いつでも」「どこでも」インターネット接続できるようになりました。

これにより、インターネットコンテンツに3つの大きな変化が起こります。

スマートフォン時代の3つの変化

「いつでも」「どこでも」インターネット接続できるようになることで、情報の「検索シーン」が劇的に増加しました。

例えば、外出先で近くのお店をインターネットで検索し、検索結果からランチを食べる店を決めるような使い方が一般的になりました。

Chat Communication

これまでインターネット上のコミュニケーションといえば「メール」が主体でした。

しかしスマートフォンの時代には、より「短文」「頻繁」「リアルタイム」なコミュニケーションがとられるようになりました。

コミュニケーションをとるシーンも、家や会社のデスクに座ってとるのではなく、ちょっとした待ち時間や電車での移動中になりました。

Narrow Browsing

モバイル端末の普及により、インターネットはより「狭い」画面で見られるようになりました。

文字のコンテンツは、より「短文」で「端的」な表現が求められるようになりました。

また、コンテンツの内容によっては、文字よりも「画像」「音声」「動画」のほうが好まれるようになりました。

SNS(Social Networking Service)の登場

こうした3つの変化から、モバイルファーストの時代に最適化した新しい交流の場が生まれました。

それがSNS(Social Networking Service)と呼ばれるものです。

2003年:LinkedIn

LinkedInは、ビジネスやキャリアに関するSNSです。プロフィールや経歴を登録し、自分のスキルや実績をアピールしたり、他のユーザーとコネクションを作ったりできます。求人情報や業界ニュースも見ることができます。LinkedInは、現在でも世界中のプロフェッショナルに利用されています。

2004年:Facebook

Facebookは、世界最大のSNSです。友達や家族と写真や動画、メッセージなどを共有したり、グループやページに参加したりできます。また、ゲームやアプリ、ショッピングなども楽しむことができます。Facebookは、個人だけでなく、企業や団体も利用しています。Facebookは、現在でも多くの人に愛用されています。

2006年:Twitter

Twitterは、140文字以内の短いメッセージ(ツイート)を投稿したり、他のユーザーのツイートを見たりするSNSです。ニュースや話題、芸能人や有名人のつぶやきなどをリアルタイムに知ることができます。また、ハッシュタグやリツイートなどの機能もあります。Twitterは、現在でも世界中で話題を発信する場として利用されています。

2010年:Instagram

Instagramは、写真や動画を投稿したり、他のユーザーの投稿を見たりするSNSです。フィルターやエフェクトなどを使って写真や動画を加工できるほか、ストーリーやライブなどの機能もあります。また、ショッピングや広告なども見ることができます。Instagramは、現在でも若者を中心に人気のあるSNSです。

2011年:Snapchat

Snapchatは、写真や動画を送信したり受信したりするSNSです。送信した写真や動画は一定時間後に消えるという特徴があります。また、レンズやフィルターなどを使って写真や動画を加工できるほか、ストーリーやディスカバーなどの機能もあります。Snapchatは、現在でも若者に人気のあるSNSです。

SNS上での「CGM」

「CGM」のプラットフォームとして、こうした「SNS」が主流になるにつれ、CGMの「コンテンツ」はどう変化したのでしょうか?

ここは、既にみなさんご存知のとおりだと思うので、簡単に説明します。

AI時代の「CGM」

2022年は「AI元年」と呼ばれています。 例えば「ChatGPT」など「文章を生成するAI」が誰でも簡単に使えるようになりました。

これは「CGM」コンテンツにどのような変化をもたらすのでしょうか?

低品質・低信頼の口コミ

まず、多くの人が予想するのは「低品質・低信頼の口コミが大量に作成される」というものです。

AIを使うと「自然な文章」をいくらでも作成できます。これらを使い、実際にその商品やサービスを使っていないのに、あたかも使ったかのようなレビューを大量に作成する人や企業が登場することは想像に難くありません。

かつて、発売元の「広告」はしばしば「誇大広告」であり、その消費者の不満から「口コミメディア」が普及しました。

しかし今や、誰かが大量の「口コミ」を捏造することで、「口コミメディア」を「誇大広告」にすることが可能になってしまったのです。

「口コミメディア」のプラットフォームは、これを阻止できるのでしょうか?

ゼロにすることは難しいでしょう、今後も含めて。

仮に口コミメディアのプラットフォームが「AIが生成したと推測する文章」を拒否したとします。しかしそれは別の問題を生みます。

例えば、実際に商品を愛用していて正直にレビューを書くとき、レビューを英語で「分かりやすく」伝える目的で、消費者はAIの助けを借りたくなるでしょう。

AIが生成した文章をプラットフォームが拒否すれば、こうしたケースをすべて拒否することになります。

では、商品を実際に使用している「写真」や「動画」とともに口コミを書けばよいのでしょうか? 残念ながら「写真」や「動画」もAIで作成できてしまいます。

これは「口コミメディア」の根本的な問題なのです。

もともと「口コミメディア」では、口コミを書く一人ひとりの消費者は匿名性が高く、一人ひとりが「どのくらい商品を使い込んだ上で」口コミを書いているのか、さらに言えば一人ひとりが「本当に正直に」口コミを書いているかの信頼性は低いものでした。

AI時代になり、この問題が顕在化するのです。

「口コミメディア」から「インフルエンサー」の時代へ

これからの「CGM」は、「誰が」その口コミを発しているのかがより問われることになります。

もともと「口コミメディア」では、口コミを書く一人ひとりの消費者は匿名性が高く、一人ひとりが「どのくらい商品を使い込んだ上で」口コミを書いているのか、一人ひとりが「本当に正直に」口コミを書いているかの信頼性は低いものでした。

こういった弱点を補うために、プログ時代に「prosumer」が誕生し、SNS時代に「インフルエンサー」が誕生しました。

AI時代には、この流れが加速することになるでしょう。

これからの「CGM」は、「誰が」その口コミを書いたのかが重要なのです。 それは単に、口コミの執筆者が実際に商品を使って正直に口コミ書いているかどうかという「信頼性」を確認する意味だけではなく、どの分野に「専門性」をもった消費者が口コミを書いているのかが問われるということです。

これは「prosumer」や「インフルエンサー」が、より「専門家」になっていくという意味です。

例えば自動車を専門にするインフルエンサーは、発売されるありとあらゆる自動車に試乗し、それらを比較して専門的に記事を書くということです。

そうなると、ある疑問が湧いてきます。

「自動車の専門家になったインフルエンサー」とは、様々なメディアに記事を寄稿する「自動車評論家」と何が違うのか?

この境界はますます曖昧になるでしょう。

かつて私たち消費者は、既存の広告が信頼できないという不満から、「普通の消費者」の発信する「口コミ」を信頼してショッピングをするように変わりました。

しかし信頼できる「普通の消費者」を探し求めた結果、行き着いたのは「専門家の口コミ」になってしまったのです。

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